The Crossing -ザ・クロッシング- Part II 太平輪 彼岸 その1

 

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 こちらの後編の感想です

登場人物それぞれがこれまでの人生から一つの答えを見つけていきます

 

雷将軍は前編で描かれた通り、愛する妻ユンフェンを守るため、彼女を心の支えに戦死します

夫の戦死にユンフェンは絶望しますが、自分と同じように人を愛した女性の存在を知り、自分と同じように愛する人を失った巌と出会うことにより、生まれてくる子供と二人、自らが誰かの故郷となるよう生きることを心に誓います

この二人のエピソードは戦争ものではよくあるなぁというところですが、ユンフェンの堂々たる「私は生きる」の裏側には「そのようにして生きていた数多くの女性」の姿があります

長きに渡った戦争に女性の歴史を重ねた作品に、ジョン・ウー監督の思いを感じたような気がしました

 

巌は4年に及ぶ戦地転戦と捕虜生活を終えて実家に戻りますが、恋人雅子からの手紙は燃やされていました

雅子の消息も知れぬまま、すっかり変わってしまった実家で、心ここに在らずの生活をする彼に、ユンフェンが雅子の手帳を手渡します

戦争の記憶に塗りつぶされた彼の心に、明るく切なく苦しいまでの雅子との恋の日々が蘇ります

そんな折、母から兄を失った義理の姉を嫁に迎えるよう言い渡されます

巌の兄は持病のため徴発は免れたものの、父親の遺志を継いで政治活動をしたため過酷な取り調べを受け、命を落としていました

巌は兄に代わって従軍し、母や兄嫁とは違う形で家を守る勤めを果たしてきたのですが、巌の4年の不在を親不孝と詰る母には母の理屈があり、反論ができません

そんな時、母親が燃やしたはずの、巌はその存在も知らなかった雅子からの手紙を兄嫁から手渡されます

ここまで、母親が雅子の手紙を焼いた理由は「これからの台湾社会で生きて行くためには、日本人との繋がりがあってはいけない」ということだと思っていました

けれど、雅子の手紙を火にくべながら母親は涙を流していました

何故なら、その手紙は遺書に近いものだったからです

母親も夫を失いました

兄嫁も夫を失いました

母親が巌に手紙を読ませたくなかったのは、愛する人の死を息子に知らせたくなかったからでしょう

殊更に巌に辛くあたり、今を生きることだけを強いたのも、そういう理由だったのかも知れません

兄嫁は内容は知らないまま手紙を竃から拾い出したのですが、読んで雅子がこの世にはもういないであろうことはわかったと思います

兄嫁は保管していた雅子の手紙を、自分との縁談を決断しなければいけない場面で巌に渡します

巌がこれからを生きるためには、過去を知ることが必要だと考えたのかも知れません

母親も兄嫁も、それぞれ愛する人を失い、それぞれの考えがあって今を生きている人です

そして、それぞれの思いから、巌に生きてもらうために自分にできることをしようとしたのだと思いました

兄嫁鱗萌えの件です

ある日、巌は家を守るために露店で魚を捌いて働く兄嫁の姿を見ます

巌の姿を認めて顔を上げた兄嫁の髪には飛んだ鱗が付いていて、兄嫁は恥ずかしそうに鱗をはらいます

巌は兄が健在の間に出征し、帰ってきたら兄嫁は後家になっていました

母の4年も巌は知りませんが、それ以上に兄嫁の4年を巌は知りません

あのシーンは知らない4年という時間を経て、現在の兄嫁と出会うというシーンだったのかなぁと思います

兄嫁を妻に迎え、政治活動のために大陸へ渡った弟を迎えに出かけるとき、巌は兄嫁の髪をそっと撫でます

あの時すでに、巌は心の中では、彼女の髪にかかった鱗を取ろうと手を伸ばしていたのかも知れません

しかし、台湾への帰途、巌の乗った太平輪は沈没します

海へ沈む巌の脳裏に、生に絶望し入水する雅子の姿が浮かびますが、映像として二人は目を合わせることも、触れ合うこともありません

雅子が迎えにきたのでもなく、二人の恋が死をもって成就したのでもない、巌が生きることを手放した、ただそれだけのシーンだったように思いました

 

そうして巌は死ぬ、その一方で

続きます