「スウィング・キッズ」(韓国2018年)を観ました (ネタバレします)

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こちらの映画です

予告編や公式サイトの記事に騙されてはいけません

「パラサイト」級の「うわぁぁぁぁ!やられた!」映画です

まだご覧になっていなかったら、ここを読むよりご覧になるべきです

 

オープニングで語られる朝鮮戦争の戦況、柔らかなタッチのアニメで記される半島を動くラインに愕然としました

半島の南から北まで舐めるように戦線が移動するのです

各都市を陥落させながら南下し、奪還しながら北上する地上戦です

韓国の歴史に触れる映画を観るたびに、知らなかった事柄に愕然としつつ、少しずつは学んできたのですが、それでもこんな風に軽やかなラインの上下で描かれる戦争の行方に、知識以上に心が試されているようでした

ここでもう頭がくらくらでした

続いて描かれる捕虜収容所では、未だ人民共和国を支持する勢力と変節した勢力が戦場の争いをそのままに傷つけ合い、命を奪い合っていました

それが収容所全体を巻き込む動乱となり、再びそのようなことが起こらないよう新しい所長が就任するところから本編が始まります

 

とにかくすごかったです

主人公ロ・ギスは踊るべくして生まれた人間でした

ギスが抗いようもなくタップダンスに惹かれていく様子は切ないくらいでした

ジャクソン始めダンスチームのメンバーも個性豊かで人物の背景も深く、魅力的な人々でした

でも、それ以外の人々の内面描写が素晴らしかったのです

同じ共和国軍の友人、ヤンキー監視兵、所長、共和国の大幹部まで、皆、人間としていくつもの顔と心を持っていました

それが時に動き、揺らぐのが希望でもあり、苦しく切なくもありました

 

ギスが一人で踊るシーンが何回かあります

圧巻です

踊るたびに彼の内面世界が変わっているのも感じられます

ギスとパンネ(ダンスチームの一員、女性)がそれぞれ、「Modern Love」で踊るシーンは胸が掻き毟られるようでした

 

お話は次々と様々な次元で動きます

個人の心の問題であったり、仲間(所属・立場)であったり、大きな策謀の下であったり

束の間の平穏や、打ち解け、近づき合う人々が見えたかと思うと、打ち壊されます

それでも一度動いた心は、たとえそれが何かの行動にならなくても消えることはありません

それがいつも見えていて、見えていながら伝わらない、状況、社会、世界を変えられないことが悲しいです

 

本編の導入部の動乱は史実ベースのようですが、このお話の登場人物や出来事がどの程度事実を基にしているのかはわかりません

ほとんどフィクションだろうなぁと思います

そのフィクションがすごいのです

ここで、この展開にするのか、まだこの展開があるのか、ああ、まだ、そんなことが…

と、最初からくらくらの頭と心を掴まれて揺さぶられっぱなしでした

そのフィクションの極めつけが、ギスの兄、ロ・ギジンです

先ほどまで、この設定を考えた人のことを呪っていました

作中でダンスを教える黒人下士官ジャクソンとパンネが黒人と女性とどちらが生きるのに過酷を競い合うシーンがあります

この映画は過去の、或いは戦時下の、或いは今も、弱者がどのように生きているのかを描いているのだと思い返し、ロ・ギジンは必然だったのだと、今やっと思えるようになったところです

 

ラストシーンもあり得るいくつかのパターンをばっさり無しにしてあります

それも、はぁ…

すごいなぁって思います

 

もう一度観てくるので、また何か書くかもしれませんが、ぜひ、ご覧になることをお勧めします