いつもネタバレ感想として書いていますが、こちらはドキュメンタリーです
ネタバレはありません
ですが、敢えて言うならば今日報道されたことこそが、それであると思います
このフィルムを観て心に残ったことを二つ
「言葉」と「暴力」です
共同監督の一人であるユヴァル・アブラハムはイスラエル人ながらアラブ語が堪能です
その理由を同じく監督であるパレスチナ人バセル・アドラに問われて「高校生の頃、友人と一緒に習った」と答え、続けて言いました
「アラブ語を習ったことで、いろいろなことがわかった」
私は字幕で観て、言葉もその時自分が理解したように覚えているので正確ではありません
「わかった」なのか、「知った」なのか、「理解した」なのか、「学んだ」なのか
けれど、彼にとってアラブ語を学んだことは、単語と文法を覚える以上の価値があったのだとわかります
就職に際して、アラブ語ができることを見込まれイスラエルの情報局からスカウトがあったそうですが、彼はそれを断りジャーナリストの道に進みました
フィルム後半、覆面をした入植者が丘の上から投石をして、パレスチナ人を追う様子が映されます
背後には武装したイスラエル軍の兵士がおり、入植者らの暴力を見守っていました
入植者の一人が丘を降り、立ち退かず抗議の声を上げるパレスチナ人に発砲します
彼は兵士のように照準を定め撃ったのではありません
目の前の、自分の脅しに屈しない人間に対して、後退りするように腰がひけたまま引金を引きました
その時銃を持っていたことが、彼に発砲する選択をさせたのだと思います
この表現は同情的すぎると感じられるかもしれません
けれど、このように人を撃った人間はいっそう現政府への支持を強くするでしょう
暴力を許された人間が暴力を振るい、それを許す権力への支持を強くする
それは、権力が自らを強固にするための仕組みなのだと思うのです
軍という暴力装置とは別の、人間の感情を利用した仕組みです
暴力とは武器を使うことに限りません
直接振るわれるものに留まりません
拡散する仕組み、拡大する仕組み、強化・永続化する仕組み、それらは「暴力を目的としたもの」「暴力的なもの」ではなく、暴力そのものです
互いの暴力を認め合うことで成立する集団、国家があります
さらには互いの暴力を認め合うことで成立する国家と国家、国際関係があります
それが成立し続けるためには、永続的な暴力が必要です
主義、体制とは別に、この仕組みを持つ国同士の自らの存続のための連携が世界に見えることが恐ろしいです