澤好摩「光源」を読む 三

ご厚意により、澤好摩句集「光源」を読む機会に恵まれました
読み進め、考えるために文章にしようと思います

うららかや崖をこぼるる崖自身

崖の突端からか、斜面からか、土塊が剥がれ転がり落ちています
それを崖自身が崖をこぼれていると詠んでいます
うららかとこぼるるのひらがな表記と、らら、るるの韻律が柔らかく明るい句です
崖は自身がこぼれつつあることを知らないのでしょう
こぼれた結果、さらに急峻を増すのか、なだらかになり、やがて丘の姿となるのか、それは分かりません

こぼるるの漢字ですが、私は零るを当てて、落ちる・散ると溢れるの意味から、崖肌に沿って剥がれ転がり落ちる様子を思い描きました
ですが、こぼるるとひらがなを用いることで、毀るの壊れるというイメージも重ねて思われます
崖をこぼるるの「を」は、転がり落ちる土塊の軌跡を見せています
軌跡は現在の崖の姿をなぞるもので、それは崖の来し方を辿るかに思えます
日々少しずつ失われる自分自身、そのもたらすものが変化なのか、破壊なのか
それは、どのように現在に至ったのかによるのでしょう
眼前の崖にその来し方行く末を見、それがうららかであると詠む
この句は、俳人の見せた一つの境地だと思います