HiGH&LOW THE MOVIEから、THE WORSTまで
HiGH&LOWの世界を、私の観た限りで言うと
・父母の不在
・長兄の死
・血縁に関わらない絆
です
主人公たちは年齢にかかわらず周囲から「ガキ」呼ばわりをされており、本人たちもその自覚があるようです
(普通大人ぶりそうなものなのに、この辺の自覚は清々しいです)
その彼らには大人として社会に生きる術を教える父母や、父母に代わる大人はいません
そこで、大人とりわけ父の代わりをするのが長兄です
彼らは仲間に「変われ」というメッセージを発しますが、彼らの言葉は単なる言葉でしかありません
互いに数年の年の差しかない間柄では、彼らには「変わった先にある未来」を実証することはできないからです
実質のない言葉に意味を持たせるものが彼らの死です
長兄らは命に代えて、仲間にメッセージを送る役割を果たしています
劇中では龍也、尊龍、スモーキーが亡くなっています
スモーキーは子供の頃から仲間を生かしてきており、彼の言葉であれば死を伴う必要はなく、仲間に届いたかもしれません
ただ、ルードボーイズと無名街の住人の場合は子供から大人への変化ということではなく、生きる場所、生きる術を一度失うことからの再出発であるため、やはり命を代償としなければ全ての仲間には届かなかったかもしれません
他のチームでも長兄に相当する人物はいますが、彼らは死ぬ必要はありませんでした
ラスカルズと達磨一家はそれ自体が企業であり、ロッキーと日向は頭として仲間に生きる術をすでに与えているからです
ロッキーと日向の言葉、「女を守るため」「楽しめ」は生きる指針でもあり、働く意義でもあるのです
村山はというと、鬼邪高校はその名の通り高校で「子供」が生きる場所だからです
そこにいる限り子供でいられる高校で、死をもって大人になれと諭す必要はありません
一番揺れたのは山王連合会でした
彼らは商店街の後継やそこに仕事を持つ自営業者か働き手です
生きる場所を共有していますが、生きる糧は各々が得ています
故郷という子供でいられる場所を守ることと、大人の社会において生きる糧、術を守っていくことに齟齬が生じ、仲間割れが起きてしまいました
そのためにコブラが命を落としかけることになりますが、山王連合自体がMUGENの二代目であるため、長兄としてのMUGENがあるためにコブラも死なず、山王連合会も解散せずに済んでいます
そのMUGEN、龍也が最も「父親がいないために死なざるを得なかった長兄」だと思います
龍也と琥珀の年の差は知らないのですが、ほぼ並んで歩いているような間柄で突然「こちらの道が正しい」と角を曲がられては、納得がいかないのは仕方がありません
琥珀の反発、龍也の死、琥珀の自責と混乱は過剰な役割を負わされた長兄と弟そのものでした
「END OF THE SKY」「FINAL MISSION」でHiGH&LOW世界に大人が登場します
一つは九龍会の面々
一つはその九龍会の中の久世龍心、黒崎
もう一つが西郷です
(テッツのお父さんも)
彼らは琥珀たちを「もう子供ではない」と認めて、九龍会は潰しにかかり、久世龍心は自らを省み、黒崎は勧誘し、西郷は共闘します
琥珀たちはこの時点で社会への最初の接点を得たのでしょう
これから「もう子供ではない」ではなく、「大人」として生きていくことになるのだろうと思いました
「HiGH&LOW THE MOVIE」とは子供が困難を乗り越えて大人になる物語なのだなぁと思います
「HiGH&LOW THE MOVIE」にはまだ残された課題がありました
ラスカルズ、達磨一家は元から大人ですし、ルードボーイズも再生の途についています
山王連合会は精神的な絆を確かにしつつ、それぞれが生きていくことになるのでしょう
けれども鬼邪高は?
HiGH&LOW世界の大人は皆、自分たちが生きることに精一杯で子供を育てる余裕はもっていませんでした
その結果、長兄が死ななければならなくなっていました
ずっとこのシステムなの?
それに対する答えが「THE WORST」なのだと思います
「THE WORST」には伝えるべきことを全て伝えて死ぬ祖父、子供らを慈しみ育てて死ぬ祖母の役割を果たす他人が登場しました
ここでも父母世代は自分が生きること、子供を命として生かすことに精一杯で、心を育む余裕はない様子ではありますが、それに代わる祖父祖母世代が描かれています
また、村山が出会う関の父親は父親代行であり、パルコは手の届く未来を見せてくれる兄です
彼らは村山が地続きの未来へ踏み出すための大人として存在します
「THE WORST」の幼馴染6人はMUGENの二人、山王連合会の三人の「あったかもしれない過去と未来」を見せてくれています
それは「HiGH&LOW THE MOVIE」にはなく「THE WORST」にある大人の存在と、「HiGH&LOW THE MOVIE」が変えた世界のおかげなのかもしれません
ラストで村山、古屋、関の3人はバイクに乗っています
鬼邪高のイメージカラーは青、MUGENの最初のジャケットは革ではなくてブルーデニムでした
鬼邪高のテーマは、DOBERMAN INFINITY / JUMP AROUND ∞、これも無限です
MUGENを継ぐのは村山だったのだなぁと思ったりもしました
「HiGH&LOW THE MOVIE」の語る変化と、見せてくれる継承がこのように現れたのではないかと感じました
*尊龍の死について何も書いていないのは、まだ「RED RAIN」を観ていないからです
観なきゃなぁ