「PARCO劇場開場50周年記念シリーズ 新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~」ネタバレ感想 3

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ハムレットの独白について
他の登場人物は他者との会話によって、自分自身の姿を描いていましたが、ハムレットには独白のコーナーがありました
クローヂヤスには否定していた大学へ戻りたい理由なども赤裸々に語っており、正直な気持ちなのだろうと思います
自己矛盾と葛藤で描いた自画像のようです
矛盾していようと葛藤していようと、セルフプロデュースの作品であり、ガーツルードとの会話でオフヰリアが開示したものとは違うものです
オフヰリヤにはとっ散らかった分だけ道がありますが、ハムレットはどれだけの矛盾と葛藤があっても、セルフプロデュースの域を出ないからです
なんとなく、平野啓一郎さんのおっしゃる「分人」を思い出しました

 

ラスト、ハムレットとクローヂアスの会話です
クローヂアスは自分に兄への殺意があったことを認めます
その上で、実行はしていないと言います
これは、取引です
人間には受け入れられる悪と受け入れられない悪があります
相手が受け入れられる悪を告白し、相手がもう望まない悪は否定する、相手のこれ以上の悪は聞きたくないし、知りたくないという心を利用した一つの手法です
「これだけ自分に不利になることを打ち明けたのだから、本当のことを言っているのだろう」
相手は、これを合理的な判断だと思うかもしれません
後に嘘だとわかった時には、騙されたと怒るかもしれません
けれど、取引を持ちかけた方からすれば、受け入れた時点で二人は共犯なのです
もちろん、それだけの悪を抱えた人間なら、それ以上のこともしただろうと疑い続けることもできます
ですが、疑い続けること、非難し続けることは、とても苦しいことです
舞台はここで唐突に幕を下ろします

私はハムレットは疑いつづけただろうと思います
彼自身が自分を猜疑心の塊だと言っていたから、でもありますが、彼の衣装、ピンクの服に黒の羽織物を思い出したからです
赤ちゃんの色、ピンク色は他の色に混ざることができません
ハムレットは自分を偽る代わりに、黒で自分を隠していました
この後、ハムレットは生きるためにクローヂアスの言葉を飲むかもしれません
うまく取引をして、オフヰリヤとの結婚を果たすかもしれません
けれど、それはハムレットが何色かに染まったり、混じったりするのではなく、黒い羽織でピンク色の自分を隠し続けることなのだと思います

 

オフヰリヤの精神とハムレットの精神、どちらが強靭かを考えたとき、オフヰリヤの精神の方が生き延びるに十分な柔軟性と可能性を持っているように思いました

ですが、柔軟性には疑い続ける強さはありません

自分を苦しめる選択をする強さを思った時、太宰は強かったから亡くなったのかなと、ふと思いました
けれど、このハムレットは死なない
決して死なないと、この作品を観て思いました

 

 

この作品が今、上演されたことについての感想を、また書きます