劇場版で大きく変化しているのは、牧です
社を挙げての巨大プロジェクトへの異動が内示され、相談しようと香港を訪れれば春田に浮気疑惑、異動をしてみると想像以上のスケールの仕事内容、仕事量で10日もたずに倒れる激務(春田の帰任の1週間前に異動していて、その後も数日しか経っていないようです)
それもこれも、再会を待ち望んだ春田の浮気(疑惑)と、牧の仕事と夢を理解しない春田のせい
でしょうか?
入社6年目の社員が10日で倒れるのは、一重に上司の管理不行き届きです
狸穴が早めに上がっていいというのを牧が断ってはいますが、仕事量の配分と人員配置が間違っています
春田は実質役には立っていないとはいえ、牧の体を案じています
作中では春田が帰任する1週間前に牧は異動しています
春田の帰任したラタトゥイユごはんの晩を8日目として、翌日は春田が真っ黒な唐揚げを作っており、この日に牧は家を出ることを決めています
「忙しい中作ったごはんを食べなかった」「仕事中に大量のラインを送りつけ、食べられない唐揚げを作った上、流しを散らかしに散らかしてほったらかし」
この2点で、同居再開2日目でもう家を出るというのは、あまりに決断が早い、というより、軽いのではないでしょうか
作中の牧の台詞「関係が深くなるほど嫌なところも見えてきて」は、描かれていない一年間の二人の在り方にも原因があるのだと思います
牧は確かに自己犠牲の人ですが、自ら「自己犠牲の人」を任じているところがあります
春田についても、仕事についても、自分を犠牲にして頑張っているという気持ちが、自ずと「わかってくれない」というストレスを生じるのだと思います
黒澤部長の「かまってヒロイン爆誕!」は、LINEスタンプで目にした時は黒澤部長のことを言っているのだと思っていました
あの場面での黒澤部長の牧への「かまってヒロイン爆誕!」は、誰も気づくことができず、指摘することのなかった牧の本質への指摘であり、牧への諭しだったと思います
ドラマで「長さより深さだと思うんですけど」の啖呵を切った牧ですが、深い愛情と深い理解を求めた日々に、「わかってもらえない」「報われない」思いが積もってしまったのではないでしょうか
ドラマではあれほど春田を離すまいとしていた牧が、今回は春田の切り出した別れ話を受け入れます
春田の甘えだとわかっていたはずだし、受け入れたのはドラマのときのような「春田のために」という愛情からでもありません
牧としては、全ての原因が春田にあり、別れ話は春田の逆ギレとしか映らなかったのでしょう
「このままでは春田を嫌いになってしまう」というのは、それだけ春田への愛情が深かったとも言えますが、同時に「それほど自分の思い(だけ)を大事にした」とも感じられます
黒澤部長の「プライドが高いだけなんじゃないのぉ!?」の通り、自分の気持ちだけを大切に抱え込んで、好きなはずの春田にさえ「嫌な部分を見せて自分の愛情を損なうこと」を許さなかったのだと思います
春田に「嫌なところがあっても、嫌いな部分ができても、牧じゃなきゃイヤだ」と言われて、牧はずっと一緒にいることの意味に気がついたのだと思います
愛情とは完璧な恋心を永遠に保存することではなく、変化の中に「それでも」という核心を離さずにいることなのでしょう
ところで、牧の夢は牧だけのものでしょうか
入社前のOB訪問ではなんの夢も持っていませんでした
武川さんの仕事への姿勢に感銘を受け、春田の町の人々と触れ合う姿に不動産の仕事の楽しさを知り、それらが「たくさんの人の幸せをお手伝いする」という牧の夢に結実したのだと思います
武川さんも春田も牧の夢を知りませんでしたが、それは彼らが牧に与えたものでした
二人は牧の夢を尊重できなかったかもしれませんが、牧が彼らと自分の気持ちを共有することを望まなかったことも、牧が二人の無理解に苦しむ原因になったのだと思います
こうして見ると、牧は欲張りですよね
恋をして、春田の愛情を得て、次は仕事で成果をあげたい
でも、誰だってそうなんじゃないかなぁと思いました
誰かが支えてくれると思うから、次のチャレンジができる、自分の世界が広がっていく
春田は中身天使だし、部長は…部長も中身天使だし、その中で牧は理想の人間のように見えながら、実はとてもとても人間らしい、春田以上にダメなところもいっぱいある人間なんだなぁと思いました
黒澤部長のことを書きたくて、タイトルも黒澤部長としていたのに、牧の話で終わってしまいました
明日以降、じわじわ黒澤部長のことを書きたいと思います